最高裁判所第二小法廷 昭和44年(行ツ)6号 判決 1969年4月25日
上告人
池原義弘
代理人
田中藤作
ほか二名
被上告人
検事総長
井本台吉
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人田中藤作・同井野口勤・同大江篤弘の上告理由第一点および第五点について。
原審は、所論南浦利一が出納責任者であつた旨を認定したもので、その認定判断に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するに帰し、とうてい採用できない。
同第二点ないし第四点について。
所論違憲をいう部分は、その実質は、たんなる法令違背の主張にすぎない。そして、公職選挙法二五一条の二の法意が原審説示のとおりであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和四〇年(行ツ)第七四号同四一年六月二三日第一小法廷判決、民集二〇巻五号一一三四頁)。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第六点について。
特赦は、有罪の言渡しの効力を失わせるが、有罪の言渡しに基づく既成の効果は、これによつて変更されることはない(恩赦法五条、一一条)。特赦を含めて恩赦の効力は、ただ、将来に向かつて生ずるにとどまるのである(当裁判所昭和三三年(オ)第一一〇二号同三七年二月二日第二小法廷判決、民集一六巻二号一七八頁参照)。
したがつて、所論南浦利一につき特赦があつても、そのことは、公職選挙法二五一条の二および二一一条に基づき、上告人の当選を無効とすべきものとした原審の判断に、なんら所論の違法を生ぜしめるものではない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)
上告代理人の上告理由
第六点 原審判決後上告人の当選無効の原因たる訴外南浦利一の有罪判決は特赦により消滅する状態にある。
いわゆる明治百年恩赦に係る昭和四三年一一月一日公布の恩赦法第一五条の規定に基づき特赦又は減刑の出願に関する臨時特例に関する省令、法務省令第四六号により特赦の出願が許されることになつた訴外南浦利一は右省令に基づき、同年一一月二八日奈良地方検察庁葛城支部へ特赦の出願をしている。
よつて右南浦利一の特赦出願により特赦があつたときは、恩赦法第五条の規定により同人の有罪の言渡の効力は失うことになる、従つて上告人の当選無効の要件である公職選挙法第二五一条の二第一項の出納責任者が同二二一条の罪を犯し刑に処せられたということも執行猶予中であるから遡及して消滅すると云わなくてはならない。
即ち訴外南浦利一が特赦せられ有罪判決なきに帰するものであるから原判決はこの時この点に於て事情変更あるものとして破棄せらるべきである。
固より南浦利一の特赦は未だ決定せられていないが既に正規の手続が進められている以上近く決定せらるべきであるから別に上申するもこの点斟酌せられたい。